大塚久生(ニーネ)×大橋裕之
対談インタビュー そのB

(インタビュアー 近藤チマメ)

 1 2 3

■選曲解説


01 酔っ払っている

大橋 アルバム全体の流れはなんとなく決めたんですが、もう、一曲目は「酔っ払っている」から始まった方がいいだろうと思いました。アルバム『8月のレシーバー』のイメージもあったかもしれませんが(『8月のレシーバー』の1曲目に収録されている)、一曲目に「僕の作った歌なんかよりも僕のほうがいいよ」っていうフレーズを聴いてもらったらいいだろうなぁって。





02 タイ料理

大橋 この曲もオリジナルアルバムの印象があって2曲目にしたのかもしれません。(『ハッピータイムハッピーアワー』の2曲目に収録されている)「また同じものを食べて同じ匂いになろう/同じ気持ちになろう」っていう歌詞が好きです。

大塚  「タイ料理」は、すごい印象に残ってるって言ってくれる人多いよね。自分たちで思ってる以上に反応がある。だから不思議だなぁって思う。

●やっぱコーラスが印象的ですよね。

大塚 コーラスでずっと繰り返してるからなのかな。(笑)

●ニーネのポップな部分を凝縮した曲なのかなぁって思いますよ。だから、「マカロンの歌」が入ってないのは「タイ料理」が入ってるからなのかなぁって思いました。

大橋 ああ〜。

●これは「タイ料理」ってフレーズから生まれたんですか?

大塚 そうだね、「タイ料理」っていうコーラスはある日のリハでサダが歌ったんだよね。そのフレーズをきっかけにして作った。歌詞的に言うと、間奏前までは完全にサダだね。サダが主人公。後半は違うけど。そういうのけっこうあるよ。「マカロンの歌」も、サダがマカロンのこと知らなくって勘違いしてたから、「マカロンってどんなものだと思ってるの?」ってインタビューしてって、「上が黒いんっすよ〜」とか答えるのを全部メモって作ったの。途中で平野が「えー、違うよ〜」とか口をはさむのを「いいから!シーッ!」って止めて(笑)

●へえ〜〜。

大橋 じゃマカロンの歌詞の「先輩」っていうのは?

大塚 「先輩」は俺だよね、初期設定的には(笑)。





03 四倍ブルー

大塚 「四倍ブルー」はね、意外だったよ、大橋くんが選んでくれてたのが。

大橋 ああ、そうですか。でもこれは、もう決め手になったのは、選ぶ直前にメガネくん(「ニーネ・ベスト」を作るきっかけになった路上での飲みの場にいた)がすごい好きだっていうのを聞いてて。俺ももちろん好きなんですけど、これはちょっとメガネくんのためにも入れないといけないなって思って。

大塚 へえ、それは知ったらきっと喜んじゃうね(笑)

●どういう意味でびっくりしたんですか?

大塚 うーん、歌の部分が短いじゃない?それで、どっちかっていうと甘いタイプの曲でしょ?で、大橋くんの漫画に恋愛要素ってあまりないから。スウィートなテーストってほとんどないよね。だから選ぶとは全然思ってなかった。でも大橋くんの中にそういう部分もあるんだなぁって、そういうのが驚きだったよ。

大橋 ああもう、ぜんぜん。

大塚 ラブソング聴いて泣いたりするのかなぁって。

大橋 ふははは(笑)。





04 うつぎみDXOK

大橋 これはもうイントロのギターからすごく好きです。

大塚 これは昔から好きだって言ってくれてるよね。

大橋 そうですね、もう「だんだん本気になってく」とか、好きな歌詞がどんどん挙げられますね。いきなり「続けるためにがんばろうぜ」じゃないですか。最初聴いた時、その、「何を」続けるっていうのを言わずにいきなり始まるのが、かなり切羽詰ってる感じだなぁと思って。

大塚 ふうーん。

大橋 もう続けていけそうにないんだろうけど、ちょっとした希望を信じてやっていくしかないぜっていうのを感じたんですよね。

大塚 これはもう昔から大橋くんが好きだって言ってくれてて、で、昔から「この曲を聴かせるといいって言ってくれる人多いんですよ」って言ってくれてたの。だから、これはきっと入るだろうなって予想してた。





05 endless summer

大橋 この曲もそうですね。

大塚 そう、この曲も昔から好きって言ってくれてて。最初にCDRで発表したんだけど、そのあとライブでいろいろアレンジしてやってたら、「あのCDRのテイクが好きだから、あれで聴きたいです」って言われた(笑)。

●ふはは。

大塚 このベスト、実は最初に大橋くんが「作ろう」って言ってくれた時、全曲再録の新録音源にしちゃおうかなって考えもあったの。バンドとしては、楽しいし、聞く人も喜んでくれるかなって思って。でも、大橋くんに、どの曲も「最初に気に入った時のテイクが好きで、テイクが違うと残念です」って意味のことを言われて(笑)。

大橋 まぁなるべく同じテイクがいいですよね。

大塚 うん。ベストではこの曲はCDR音源ではないんだけどね。アルバム『小さめシャツの女の子 公園でIT革命』用にレコーディングした時も考えたよ。アレンジはいろいろしたけど。極力曲を作った当初のイメージを損なわないものを録りたいなって気持ちがあったな。大橋くんがCDR版もアルバム版もどっちも良いって言ってくれてたのでアルバムテイクの方を選びました。





06 しあわせのひびき

大橋 これは、ベストとなると入れたいなっていうのがありました。最後の長いインスト部分も好きです。

大塚 ああ、ギターソロ。

大橋 あの、気の利いた解説があんまり出来なくて…

大塚 「しあわせのひびき」はね、俺も新しいミックスを発表出来てうれしかったよ。間奏とかエンディングのギターの目立たせたかった部分をちょっと前に出るようにミックスし直せたから。だからエンディングのギターソロは以前のアルバムのミックスより泣けるギターソロになってると思います。

大橋 グッと来ますよね。「しあわせになれるとしても/しあわせになれないとしても/いっしょに」とか。初めて聴いた人にもグッと来るだろうなって。

大塚 こういう話を、コトリのライブの後に飲んでる時にもしてくれて。で、意外だったんだ、「大橋くんがそういうふうに聴いてくれてたんだ?」って。大橋くんは「ニーネが好き」とは言ってくれてたけど、どのくらい好きなのか、ちゃんとわかってなかったから。あの日に歌詞の話をたくさんしてくれて、大橋くんがそんな風に歌詞まで聴いてくれてて、今も「好き」って言ってくれるのがすごくうれしかった。





07 summer melody

大橋 もうぜんぶ同じコメントになっちゃうんですけど(笑)。でもこれも歌詞がすごく好きです。「便利なだけでやさしくするはずなんでないだろ」とか「屋上みたいな目」とか。

大塚 なんか「summer melody」に関しては、俺はもう何も言わない方がいいんじゃないかって思ってるけど(笑)。

大橋 ああ、はい。

大塚 みんないろんな解釈してくれてるから、おもしろいよね。「summer melody」はね、ニーネの王道っていうか、この曲と「酔っぱらっている」が入ってたから、安心して大橋くんに今回の選曲を任せられたっていうのもあるかもしれない。

大橋 まぁどこまで歌詞を人が気にしてるかはわかんないんですけど、でも、初めて聴く人のことを考えるとやっぱり歌詞が強いのがいいですよねぇ。

大塚 ニーネの歌詞が嫌いって人もいるけどね。でも、あの夜に大橋くんが「ニーネの歌詞は青臭いからやだって言ってる人もいるけど、僕はそういうところもいいと思うんです!」って言ってくれたんだよね。

大橋 青臭いって、僕はあんまり思わないですよね。例えば「自分のことが出来てから会おうよ」とか、「そのままのことを歌詞にしてる」っていう人もいるんですけど、でも、そういうことじゃないだろうって思うんです。





08 終わりの歌

大塚 これは、一番意外だった。

大橋 あ、そうなんですか。

大塚 「四倍ブルー」と「終わりの歌」かな、意外に思ったのは。これを9曲の中に入れてくれるんだ!?って。

●「終わりの歌」はどう意外だったんですか?

大塚 そんなに目立った曲じゃないと思ってたから。ただ、この曲を「好きだ」って言ってくれる人は、けっこういるんだよね。

大橋 うん。「天気みたいに」ももちろん入れたかったんですけど、それはオリジナルアルバムで聴いて欲しいなってのがあったんで。

大塚 これを作った時は本当に、全然自信がなくって、デモを作ったものの誰にも聴かせてなくて。で、アルバムを作る時に瀬戸さん(OooitRecords)が家に来て「まだ人に聞かせてない音源とかないんですか?」って言うから、「ありますよ」って、聴かせてみたら「ああ、この曲いいじゃないですか」って。だから、自分で自信のない曲でも「いい」って言ってくれる人がいる場合もあるんだ、わからないものだなぁって思った。そういう意味でも、今回のベスト盤の選曲は自分では出来なかっただろうなぁって思う。人がしてくれないと難しいよね。





09 夏休みは終わりだ

大橋 ああ、これはもう絶対に入れたいなと思ってました。これもオリジナルアルバムのイメージ(『Search and Destroy』のラストに収録)があったからラストに入れました。

大塚 そっか、大橋くんの選曲の9曲はここまでだよね。ベスト盤としての締めは「夏休みは終わりだ」って感じだったんだね。

大橋 そうですね。





10 海へ

大塚 これはそもそも「大橋ロックフェス」用に作った曲だから今回入れたいって思った。初の大橋くんが冠のフェスに呼んでもらって、せっかくだからそれ用に1曲ぐらい新曲を作ろう、と思って慌てて作ったの。だから、今回の大橋くんがセレクトしてくれるベストのボーナス的な部分に入れるにはちょうどいい、と思って。で、ここからあとの3曲は「海へ」マキシ・シングル的な発想になってます。当初はニーネ・ベストのメインのジャケの他に、シングル「海へ」のジャケットも描いてもらおうと話してたんだよね。

●でも別々じゃなくって、一緒のアルバムに入れようって?

大塚 うん、アルバムとしては12曲がいいって思ってたから。全部でちょうど1時間ぐらいなの。それもちょうどいい長さだなぁと思って。





11 冬の空

大塚 これは古い曲をリミックスいろいろしてデータを探してたら、全く覚えのない曲が出てきて、聴いたらいい曲だったので「入れちゃえ!」って。歌詞は一部、ちょっとだけ変えたけど、演奏は当時のまま。ベースが平野で、ドラムがサダ。この曲も最初自信がなかったのでデモは作ったけど秘密にしてた。それで一応、コードだけ教えてインストだけ録音して、家でこっそりボーカルを入れて、その音源が残ってた。瀬戸さんが「何かないですか」って言った時に聞いてもらったけどあまり良い反応がなかったのでボツになってました。





12本当の先輩

大塚 これはちょっと迷った。今年(2013年)の1月に弾き語りでやった「よろこび」って曲があって、それをラストにしようかなっていうのも考えてて。でもそれは今後のアルバムに入れようと思って、この3曲にした。次のアルバムのことも頭にあるから。新作アルバムの全体のイメージは新しい曲が出来る度に変わっていくんだけど、でもベスト盤を作ってる段階でのイメージでは、ベスト盤はこんな感じで、一緒に収録した「海へ」マキシ・シングルはこうで、次の新譜はこういう構成で、というのが見えてた。

●次の作品へのブリッジになるということですね。

大塚 うん。あと個人的にはボーナストラックらしいボーナストラックって好きなんだよね。最後の最後に簡単なデモで、適当な感じで終わる感じ、結構好きなの。






●なるほど、以上の12曲でニーネのベスト盤と。

大塚 うん。でも、今回、いろいろな意味で、タイミング良かったよね。

大橋 あ〜、そうですね。

大塚 実は本当は、ニーネはもうずいぶん前から次は新譜を出そうと思ってたんだけど、きっと今新譜を出しても、今まで聞いていてくれてた人以外の人に聞いてもらう努力はしなかったと思うんだよね、多分。広めるってことに関して、今回は大橋くんが非常に背中を押してくれた。自分の判断だけだったら絶対に躊躇してやめちゃってた人にまで連絡して聞いてもらったよね。

大橋 俺も自分自身の宣伝じゃないから強気で大塚さんに言えたって部分もあるんですけど(笑)。

大塚 当初の目的からして、「いろんな人に聴いてもらうためのベスト」ってことで作ってるからね。だから無茶もしたけど、がんばってよかったと思ってるよ。


●ただ、まぁ名前を出して「選曲した」っていうのはけっこう大きな決断ですよね。

大橋 正直、「なにあいつミュージシャンのベストアルバム選曲してるんだよ!」みたいに言われるのも、まぁ別に言われてもいいんですけど、でも「調子に乗ってる」とか言われるのは、気持ちはよくはないんで。でも自分としてはニーネの曲を聴いて欲しいっていうのだけがあるんで、別に名前を出してもいいし、出さなくてもいいし、どっちでも。とにかく届けば。最初はCDRでライブ会場だけでの販売にしようかって言ってたのが、どうせならってことで。

大塚 そうだね。

大橋 でもその「どうせなら」がこうちゃんとした形になってよかったって思います。


〜以上〜




 1 2 3

2013/6/14「ニーネ・ベスト」レコ発記念ニーネ・ワンマンライブ!!高円寺JIROKICHI


チェリータイムスTONGちゃんによる「ニーネ・ベスト」歌詞解説


ニーネ、ベストアルバム「ニーネ・ベスト」特設ページ