大塚久生(ニーネ)×大橋裕之
対談インタビュー そのA

(インタビュアー 近藤チマメ)

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とにかく、大橋くんなら人目にさえつけば人気が出るって思ってた(大塚)
●ずっとニーネの作品は聞いてたんですか?

大橋 ずっと聴いてました。今日は全部持ってきたんですけど(笑)。

大塚 お、すごい!なかなか見ないなあ、自分以外で全部揃えてる人って(笑)。


●わたし大橋先生のことは大塚さんから「すごい漫画家がいる!」って教えてもらったんですけど、お二人の馴れ初めとかよく知らないんですよね。元々どうやって知り合ったんですか?

大橋 ミクシィで。

大塚 ミクシィだね。


●あ、そうなんですか。

大塚 「僕、名古屋で漫画描いてます。来年東京に行くんで、そしたらライブ行きます!」みたいなメッセージをくれて。

大橋 そうですそうです。

大塚 で、大橋くんのホームページで漫画が読めたから、それを読んで。


●その頃はニーネを聴いてたんですか?

大橋 そうですね。最初に買ったのは思い出せないんですけど、『8月のレシーバー』か『プラタナスハードライン』を、2000年ぐらいに。その頃、隣町にタワレコが出来て、そこで、まぁほぼ同時に買ったんです。それまで全然聞いたことなくて。お店であ行から全部くまなく見ていって見つけたんです。


●ふはははは(笑)

大橋 背表紙かなんかで気になったからパッと取って。曽我部さんがコメントしてましたよね?

大塚 『8月のレシーバー』だ。


大橋 あと『プラタナスハードライン』の曲名を見て「どんなバンドなんだろう?」って。その辺で気になって、聴かずに買ったんです。そしたらすごい良くって。

大塚 珍しいよね、『プラタナスハードライン』持ってる人。買ってくれたんだね。


●それで聴いて「かっこいい!」って思って?

大橋 「かっこいい!」って思って。それでずっと聴き続けてて、で、ミクシィで大塚さんを発見したから「あ、ニーネの大塚さんだ!」って思って(笑)。で、うれしくてメッセージを送ったんですよね。

大塚 うん、で、会ったのはショーボートだっけ?

大橋 たしか、クラブライナーですね。2006年の4月です。


●上京してから?

大橋 はい。


●「ニーネがいなきゃ東京で漫画を書いて来れなかった」っていうのは?

大塚 …いなくても絶対描いてたよね。

大橋 いやいや、でも、東京出てきて、大塚さんは最初に話してくれた人で…知り合いもそんなにいなかったから。それも自分にとっては重要だったんです。「漫画おもしろかった」って言ってくれたりとか。

大塚 当時は常にカバンにいっぱい漫画入れて持ってたよね。

大橋 それで配りまわって反応があったのはしまおさんぐらいでしたね。

大塚 へえ、本当?まほちゃんは反応あったんだ。うれしいね。

大橋 しまおさんはウェブサイトの日記みたいなので書いてくれて。


●でも当時、「えっ、もう上京するんだ!?」ってびっくりしました。思い切ったな〜って。

大塚 あれは、仕事をやめたんだよね?

大橋 やめたというか、やめたかったんで、やめるって決めて東京に来ることにしたんです。

大塚 もともと就職してた人が仕事を辞めてまで「何かをやる」ってがんばるのはすごい決意だよね。その時はかなり「やらなきゃ!」って気持ちになったんじゃない?

大橋 そんなに決意があったわけじゃないんですけどね(笑)。とにかく仕事をやめたかったんです。


●すごいなあ。

大塚 ね。

大橋 でもミクシィで大塚さんとかDUB-Oさんと会って、漫画も「面白い」って言ってもらえなかったら本当に東京に行ったかわかんないですね。

大塚 本当!?

大橋 いや、来てたかもしれないですけど、ニーネがいなかったらもっと不安で、押しつぶされそうになってたと思います(笑)。

大塚 持ち込みのこととかも話したよね。「ア●●スに持っていったらこう言われた」とか。とにかく、大橋くんなら人目にさえつけば人気が出るって思ってたから、「とりあえず人目につくところでやっちゃいなよ」ってしきりに勧めてた。編集者の人に「背景を書き込まないとダメ」って言われたって言うから「だったら俺が背景描くからやっちゃおうよ」って言ったり。そしたら「いや、僕はこのままやりたいんです」って。おもしろかったよね。


●でも「人目につけば人気出る」って、お互いに思ってフォローしあってる関係なんですね。

大塚 ただ俺らはたいした人脈もないし、人目につけさせてあげることは出来なかったから、少しいる知り合いに紹介してみたりとかぐらいしか出来なかったけど。


●「漫画を描こう!」って思ったきっかけって何だったんですか?

大橋 ひとりで簡単に出来るってのがデカいですね。


●そんなに簡単なことではないですよね(笑)。

大橋 じゃないんですけど(笑)、こんな絵でも許されるんなら、っていう気持ちで、一番てっとり早かったですね。お笑いとかも好きだったんで、人前に出てそんなことがやれたら、コントとかそういうのもやりたかったですけど、出来ないんで。音楽とかもやりたいんですけど、人前に出るとか考えられなかったんで、「自分でも出来るな」って思えたのが漫画だったんです。

大塚 コマ割って、最初は難しくなかった?

大橋 コマ割は…だから、アレですね、いまだにちゃんとやれてるのかどうかわかんないですね。

大塚 好きにやってるって感じ?

大橋 まぁ一応考えはするんですけど、たぶん他の漫画家さんとかみたいな、すごいコマ割はしてないんで…

大塚 ハミ出してみたりとか?

大橋 はい。だからわかんないですね、いまだに。やりやすいようにやってるってだけです。

大塚 俺も漫画描こうとしたこともあったんだけど、こう、紙を前にすると、コマ割で迷っちゃうんだよね。だから、それが出来るのって尊敬しちゃう。

大橋 わかんないまま、わからないことは全部排除して始めちゃったんです。スクリーントーンとか、付けペンとか。


●それであんなにすごいマンガが描けるっていうのはすごいなあ。

大橋 まぁでも、ひとりで考えるのが楽しいですね。ひとりで描いてる楽しさと楽さが大きいですね。


●ルールとかあるんですか?

大橋 ああ〜、特に描写とかではルールは決めてないですけど、やりたくないなってものは、言われても絶対にやらないです。連載してる時も、ネームを出して、ちょっとした修正とか、こちらも納得のいくものだったらいいんですけど、大幅な直しとかが来ちゃうと、一回全部やめちゃって、新しくやり直します。なるべく、出来る限り自分で考えたいですね。


●じゃあ、あの、すごい雑な聞き方しますけど、漫画で表現したいものってどういうものなんですか?

大橋 うーん、本当に一場面が多いですね。なんか、笑っちゃうような場面とかもそうですし、惨めだったり、悲しいとか、特に何も動きがないけどなんか、パッとみて「いいな、この感じ」とか、ただそういうとこが描きたい…だけなような気がします。まぁでも20ページとかあると、それなりに話の流れは考えるんですけど。簡単にいうとそういう一場面だけが描きたいなぁって…いうのが多いですね。


●描きたい一場面に向かって収束するような?

大橋 そうですね、そういうのが多いですね。もうちょっと外枠から考えたりするのもあるんですけど。大きい話の流れが思いつくこともあるんですけど、でもだいたいは、そういう場面からくるものが多いですね。







人に聞いてもらう度に言い訳したくなっちゃうような曲は作りたくない(大塚)
●ニーネは、これまで何度かメンバーチェンジを行ってきましたが、中にはバンド存続の危機とかもあったと思います。それでもバンドを続けてきた理由っていうのは?

大塚 もうバンドはやめようって思ったことはないかな。だから、たまたま、ひとり辞めてもまだもうひとりメンバーがいるとか、続けられる状況があるから続けて来れてるんじゃないかな。「もういいかな」って思ったことは一度もないよ。曲がもう永遠に出来ないんじゃないかなって思うような時でも「バンドをやめる」っていう発想はないね。実際、曲なんかいずれ出来るだろうし。大橋くんも漫画ぜんぜん描けないって時あるでしょ?なんにも思い浮かばない時とか。

大橋 ああ〜、まぁ、不安はずっとあるんですけど、なんとかギリギリやってきてるんで…。これが今後ぱったりと、本当にもう何も描かなくなる、なんてこともあるのかな?って思うこともあるんですけどね。

大塚 え、描かなくなることもあり得るの?

大橋 描かなくなる…うーん、まぁ、楽しくなくなって描かなくなるかもっていうのは、先にはあるのかなとは思いますね。

大塚 そうなんだ。

大橋 まぁやってることが最初っからあんまり変わってないんで、あとちょっとやったらマンネリに耐えられなくなって「どうしようかな」って思うんじゃないかなっていうのは…。

大塚 でもそうなったら、前みたいに自主制作で作り出したりとかするんじゃないのかな?

大橋 まぁ多分、仕事なくなっても自主ではやりたいなと思ってますけどね。

大塚 うんうん。多分ね、もしかしたら漫画じゃなくなる…こともあるかもしれないけど、何かを作らないと気が済まない人なんだと思うんだよ、大橋くんは。そんな感じで、自分も「やめよう」って思ったことはないな。ノリで言っちゃったことはあるかもしれないけど(笑)。昔、豊田(道倫)くんの前でそういうことを言っちゃったことがあったらしくて、全然覚えてないんだけど、一時期しばらく何度も言われたことがあったよ。「あれ大塚くん就職するって言ってなかったっけ?」って(笑)。

大橋 ははは。


●でも「音楽を続ける」、じゃなくって「バンドを続ける」なんですね。

大塚 うん、バンドだね。サダの事故があったから最近ちょっと弾き語りが増えてるけど、やっぱバンドが好きだよ。バンドで、ちゃんと固定メンバーがいるのがやっぱりおもしろいな。


●それは?

大塚 創作をする時にはもちろんサポートではなくて正式なメンバーがいるのが重要だし、演奏上の話だけで言っても、バンドって約束事というか、無言で伝わる決まりごとみたいなことが結構あるからね。やってくれる人がいれば誰でも良いってものではないよね。長い年月をかけてお互いわかり合っていたりするんで。サポートのメンバーだと、何回かのリハでは全部伝えきれなかったり、ニーネならではの大切なこともあったりするから、覚えてもらっても他のバンドでは役に立たないしね。譜面的には合ってても、演奏してみたら全然合わないとかもあるし。だからやっぱり決まったメンバーで、約束事というか、わかり合える部分が自然に出来てきて、それをひとつづつ積み重ねていって演奏を完成させていくのが好きだよ。演奏がどんどんキッチリして行くだけじゃなくて、スリリングさを保つためにメンバーでやっている約束事みたいなこともあったりして。


●あー、じゃ譜面的にかなりきっちりしてるけど、それをそのまま弾いけばいいというのではないんですね(笑)。

大塚 下手にやったり、力入れて思いっきりやればスリリングになるわけでもないからね、細かい話なのでなんとも言えないんだけど(笑)。すごくうまい人たちだったら、絶妙なズレとかを操ってかっこよく演奏出来たりするんだろうけど、ウチらはテクニックとかがないので、何でかっこいい時とかっこ良くない時があるのか自分らでもわからない時があったりして。例えば、この楽器だけ若干モタった方がいいとか、そういう細かいところがわからないんだよね、きっと。それで結果的にあんまり作り込むより、勢いでやってみたり、ギリギリの状態でやってみたり、お互いの微妙な動きに反応してみたりして演奏するのが楽しいって感じるんじゃないかな。


●なんか、私はそういうギリギリの部分も含めて、ニーネの表現には他者とのコミュニケーションの切望があるように思うんですよね。

大塚 バンドをやって行くのにコミュニケーションはもっとも重要だと思ってるよ。演奏的にもそうだし、人とのやり取りがないと曲も作れないので。


●なるほど。それだと、たとえば曲を作る時段階でお客さんのことを意識したりすることもあるんですか?

大塚 なんでバンドをやるのかって話を突き詰めていくと、たぶん、自分のためでもあるし、聞いてくれる人のことも考えてるし、人が喜んでくれなきゃ意味ないとも思ってる。でも、だからといって曲を作る瞬間に、聞いてくれる人のことを考えてるかっていうと考えてないし、一概には言えないけど、ただ「曲を作る」という意味では、曲が出来るきっかけになることは誰かとのコミュニケーションから来ることが多いし、自分の中にあるものだけで曲が出来るとは思ってないから、そこは、コミュニケーションが重要なんだと思うよね。一人では思いつかないことも考えられるし。「バンドを続ける」っていう意味では、見に来てくれる人がいないとライブハウスでライブが出来ないから、お客さんにはひとりも減って欲しくないし、ひとりでも増えてくれたらうれしいし、喜んでくれたらうれしいし、来てくれたからには楽しんで帰って欲しいと思ってるから、そういう意味でも、お客さんとのコミュニケーションって言うか、そういうのも重要視してると思うよ。でも、まあ、それは普通のことなんじゃないかな。大橋くんだってそうでしょ?マンガを読んでくれる人がいなかったら…

大橋 そうですね。自分のためにやってる部分と、人に喜んでもらいたいっていう部分もありますね。でも確かに描いてる時とか思いついた時に、別にそういうこと考えてないですね、その瞬間は。結果的に喜んでくれたらそれはそれでうれしいし。

大塚 そこはみんなそうだと思うんだよね。最後は自分がいいって思わないと自分が作ったって思えないからね。人に聞いてもらう度に言い訳したくなっちゃうような曲は作りたくないよね。

大橋 僕は自分みたいな人が僕の漫画を見た時に、自分が昔漫画を読んで「うわあ!」ってなった感じになって欲しい…ですね。それと、自分みたいな人に「これはつまんねえな」って思われるのは…やだなって思います。

大塚 人前でやる段階で、これは人前でやる意味がある曲かな?ってことは考えてるよね。だから、人前でやってる曲はもう、めちゃめちゃ聞き手を意識しているし、聞き手に届いて欲しいと思ってる。だからと言って、どんなものをお客さんが求めているかとかを意識して変化していくわけでもなくて、時代の変化に沿って、作る曲も変化していってるんじゃないかなって思うよ。うちらがガーッて行きたくなる時は世間的にもそういうのを求めていると思ってる。癒しの部分が強い作品を作りたくなった時には世間でもそういう物が求められている時だったりとか。そういうのは自然になってるんだと信じて、やりたいようにやるよね。






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チェリータイムスTONGちゃんによる「ニーネ・ベスト」歌詞解説


2013/6/14「ニーネ・ベスト」レコ発記念ニーネ・ワンマンライブ!!高円寺JIROKICHI


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