大塚久生(ニーネ)×大橋裕之
対談インタビュー その@



「汚い窓も拭いたぜ!」って(笑)。ニーネはそういうところもかわいくてかっこいいんですよ[大橋]
この歌詞の部分を敢えてかっこいいって取り上げるところが、大橋くんのおもしろいところだよね(笑)[大塚]

「すごい漫画家がいるんだよ!!」と、上京したての大橋裕之くんを紹介してくれたのはニーネの大塚さんだった。『音楽と漫画』の刊行記念で開催された「大橋裕之ロックフェスティバル」で大橋くんは、「ニーネがいなきゃ東京で漫画を描いて来れなかった」と言った。 音楽と、漫画、その表現方法は違えど、お互いの才能に惚れ込み、感化し合いながら絆を深めてきたふたり。ベスト盤リリースを記念し、そんな大塚×大橋のW大コンビに、リリースに至るこれまでや選曲の葛藤、出会いや作品への想いなどを語ってもらいました。
(インタビュアー 近藤チマメ)

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考え出すと全部入れたくなってくるんで、とにかくバランスを考えるのはよそうと思いました(大橋)
●この企画は大橋くんから持ちかけたんですか?

大橋 持ち掛けたっていうか、いきなりベスト盤出すっていう話じゃなくって。

大塚 うん、急にプレゼンするみたいに「こういうのどうでしょうか?」って言ってきたわけではなくて、コトリブラックバードのライブの後に、武蔵境の路上で座って飲んでて…飲んでる時に、大橋くんがニーネのことを話してくれて、そのうちに、「ニーネはベストとかは作らないんですか?」って話になって…何がキッカケだったっけ?

大橋 何でしたかねぇ?

大塚 まぁ、そうやって飲みながらいろいろ話してる時に大橋くんが「ニーネはもっと人が聴いて喜んでくれるはずなんです」ってことを言ってくれたんだよね。「僕がニーネのMIX CDRを人にあげるとだいたい"いいね"って言ってもらえるんです」っていう話をしてくれて。

大橋 ああ、そうですね。


●その「いい」っていう反応って?

大橋 気に入ってくれる人はすごい気に入ってくれるんです。昔、僕の単行本を出した時にイベントをやって、ニーネにも出てもらったんですけど、そこで初めて見た人が終わってから、ニーネを「すごいよかった!」って言ってくれたんです。そういう話は結構たくさんあって。みんな「こんなバンド知らなかった!」って言うんです。MIX CDRはその都度自分で選曲して渡したりしてたんですけど。最初はそんな感じでCDRでも良いからベストやろうかって感じで、がっちりプレスするとかではなくて。ライブ会場でCDRで売る感じ…とか。

大塚 大橋くんとは昔からの知り合いだけど、最近は時々連絡したり、ライブを見に来てくれた時に話すくらいだったんだよね。今や人気者だから、いろんな人から依頼が来るだろうし、古い知り合いだからってことだけで俺からいろいろお願いするのも悪いと思ってて。まぁたまにイラストをお願いしたりもしてるけど(笑)。でも、そのコトリのライブ日は、ずいぶん久しぶりにちゃんと話をしたんだよね。で、久々に話したら、大橋くんは人気者になったけど、昔とあまり変わってなくて、ニーネのことを良いって言ってくれて、こういうところが良いとか話してくれて、それで、ベストなんて今まで考えたことなかったけど、大橋くんが選曲をしてくれるんだったら作ってみようかな、とりあえずどんな曲を選んでくれるかを知りたいから選んでみてよって、作る方向にかなり前向きな話になったんだよね。でもまぁ、飲んでる席での話だったし、大橋くんは忙しいから、選んでくれるとしてもいつになるかはわからないなぁ、っていうのも俺の中には若干あったんだけど、次に大橋くんに会った時に選曲して紙に書いてきてくれて。池袋でのライブの時に持ってきてくれたの。それがすごくうれしかったんだよね。で、もう、大橋くんがここまでしてくれるなら作りたいなって思って「絶対作ろう!」って言った。


●じゃあ大橋くんも、その話してた段階でお酒の場の社交辞令じゃなかったんですね。

大橋 そうですね。ただ本当のことを言えば俺が選曲をするなんて畏れ多いんで、どうかなっていうのもあったんですけど。選曲もものすごい悩んだし。ジャケットも、俺がやっていいのかなっていうのもありました。

大塚 そうなの?

大橋 だって絶対にベストアルバムっていうのは、どのアーティストのでも、シングルベストとかなら文句もないですけど、「あれ、これ入ってないんだ?」とか、「こんなの入れるんだ?」とかなるじゃないですか。だから絶対に、誰もが納得する選曲は、もう最初っから、無理だなって思ってました。…大塚さんは曲少なめにしたいって言ってましたよね?

大塚 飲んでる時の最初の段階の話で、大橋くんは16曲ぐらいかな?って感じだったよね。

大橋 はい。

大塚 16曲はちょっと多いかなぁって思って。あまり多いと聴かない曲とかも出てきそうで。だから12曲ぐらいがいいかなぁって話したの。そしたら大橋くんはさらに絞って9曲にして持ってきた。

大橋 本当は正直入れたい曲を挙げていくと16曲以上になってくるんで、でも、それだとダメだなって思って、もうばっつんばっつん削ってって。

大塚 ふふふふ。

大橋 本当は7曲ぐらいにしたかったんですよ。でも、それは無理だったんで、9曲にしました。


●大橋くんが最初に持ってきた曲から変更はあったんですか?

大塚 いやいや、その時に手書きで紙に書いてきてくれたんだけど、今回の大橋くんセレクトの9曲はまったくそのまま。


●へえ〜。削るにあたって、かなりつらかったと思うんですけど。どういう基準だったんですか?

大橋 まず、とにかくバランスは無視しようと思って、各アルバム毎からバランスよく入れようとかは考えませんでした。だから「ベスト」って言っちゃダメな感じではあるんですけど…。

大塚 (笑)


●それでもアルバムタイトルが「ニーネ・ベスト」になったのは?

大橋 本来は「大橋セレクション」とかタイトルに付けるべきなんですけど、自分だったらそういうのはあんまり買いたくないと思って、だから、名前だけ「ベスト」にさせてもらったようなところがあります。

大塚 例えば、ボブ・ディランでも、「みうらじゅんセレクション」って付いてると、みうらじゅんさんのことが好きな人は買うだろうけど、ボブ・ディランを好きな人はちょっと嫌がるんじゃないかって話になったんだよね。だから、「大橋セレクション」をタイトルにつけるのはやめませんかって言われて。最初のうち、俺、「大橋セレクション」って制作途中のCDRに毎回サインペンで書いてたの。実際そうだったし。それを書かないのは大橋くんに失礼だとも思ってたから。でも、そういう話をした結果、なるほどと思い、「ニーネのベスト」として出すことにした。


●なるほど。じゃあ選曲のポイントはなんだったんですか?

大橋 一番重要なのはもちろん「自分が好き」ってのもあるんですけど、パッと聴いて心に刺さると思うものを一番の基準に選んだのはありますね。たぶん普通のベストだったら「Endless Summer」は入れない曲だと思うんですけど、僕はすごい好きだし、入れたいなと思って。

大塚 大橋くん、昔っからあの曲好きだったよね。会場販売のCDRに入ってるデモ音源の時から良いって言ってくれてたね。

大橋 そうですねぇ。他にも本当に入れたい曲が多すぎて。現時点での最新アルバムの『小さめシャツの女の子 公園でIT革命』も全曲シングルみたいな曲だったりして。だから、考え出すと全部入れたくなってくるんで、とにかくバランスを考えるのはよそうと思いました。






本当に大塚さんの書く曲は「悔しいな」って思うぐらいに好きなんです(大橋)
●今、話を聞いてるとある程度客観的に選曲してるのかなぁって思ったんですけど、でも大橋くんが選曲してる以上、大橋くんが思ってるニーネ像が出てるのかなぁって思ったんですよね。で、大橋くんが言うニーネの「かっこよくてかわいい」っていうのをもう少し具体的に教えて欲しいなって思ったんですけど…

大橋 あー、なんだろう…えーと…………………………。

大塚 「かっこよくてかわいい」に関係あるかはわかんないけど、「こういう歌詞は他の人は言わない」って言ってくれたこととかあったよね。

大橋 ああ、そんなのはもういっぱいあるんですよね。

大塚 大橋くんにベストに入れる音源のラフミックスを聴いてもらってる時に…

大橋 「本当の先輩」…でしたかね。

大塚 「こういう言葉は普通はあんまりないです」って言ってくれて。

大橋 この9曲を選んだのも、本当に歌詞の部分が大きいですね。もちろん演奏もメロディもかっこいいんですけど、歌詞を一番…残るように…

大塚 気になる歌詞中心に選んだんだ?

大橋 歌を聞く時に歌詞を気にする人って、多いのか少ないのかわからないんですけど、僕はけっこう歌詞が重要で、言葉自体が。例えばインストバンドでも、アルバムのタイトルとかジャケとかから、言葉になってなくても、言葉を感じられるものが重要で。だからこの9曲を選んだ時も歌詞に相当重点を置きました。聴いた時に、一発で残るようなものを。

大塚 歌詞が多くて歌詞カード作るの大変だったよ(笑)。


●歌詞はほんと、「厚かましい顔はもうしなくてもいいんだよ」とかね。

大橋 「厚かましい」っていうのは、普段は「厚かましい奴だ!」って、誰かが怒って言う時ぐらいしか聞いたことないのに、それを「厚かましい顔しなくてもいい」って。「あれ?厚かましいってどういう顔だっけな?」って思ったり、すごい考えるし、言葉が新鮮に聞こえてくるんですよね。


●じゃあ大橋くんにとってやっぱり歌詞の部分が重要なんですね。

大橋 そうですね。「うつぎみDXOK」の歌詞もそうです。「汚い窓も拭いたぜ!」とか。

大塚 大橋くんそこ好きだよね(笑)。

大橋 この歌詞って、ちょっと失礼な言い方になるかもしれないんですけど、「汚い窓も拭いた」ってことを、「拭いたぜ!」って(笑)、激しいサウンドに乗せている部分が、すごくいい意味でアホッぽい感じがあるんですよね。

大塚 ふふふふふ。

大橋 それがすごいかっこいんですよ。 「汚い窓も拭いたぜ!」って(笑)。そういうところもかわいくてかっこいいんですよ。そういうところ、いっぱいあります。

大塚 この歌詞の部分を敢えてかっこいいって取り上げるところが、大橋くんのおもしろいところだよね(笑)。


●そういうのは大塚さんにとって日常の言語なんですかね?

大塚 ある程度は考えても書くけど、でも、すんごい考えて書いてるわけでもないような…なんだろね。


●でも奇をてらってやろうっていうよりは、自分の中にあるものなんですよね?

大塚 うん、奇をてらうってことはないね。その当時本当に使ってた言葉とかが多いんじゃないかな。


●あ〜、確かに歌詞はけっこう「あのとき大塚さんこういうことしてたな〜」って思い出しますよ。「茶色いお酒を飲んでるよ」とか。

大塚 あぁ、あの頃は茶色いお酒を飲んでたよね。

大橋 「モカ」っていうのは、なんであそこで「モカ」が出てきたんですか?

大塚 「モカ」はあの頃けっこう飲んでたんだよね。カフェインだから、目が覚めるでしょ。歌詞の中では、単純に上げ下げ的な意味合いもあるけど。モカを飲むと眠くなくなるから上がって、お酒を飲むと眠くなるから下がる。そういう、上げ下げ。


●あと、間違い電話でえばられてる歌詞とか、実際に「こんなことがあったんだよ〜」って話してましたもんね。

大塚 ふふ、うん、してたね。


●そのまま歌詞になってる!って思って。

大塚 あー、そうだね。実際あったこと多いよね。話を作っちゃうこともあるけど。例えば、サダが何か相談してくれて「こういうことがあったんですよ」「それなら今度こういう場面があったらこう言えばいいんじゃない?」とか、揉め事の話とかで「ここでこの一言が言えないから揉めちゃうんじゃないの?」みたいなことを話してると、ある種の物語みたいなのが出来てきて、じゃ、歌の中の人に言わせようってなって。で、その人になりきって歌うとか。

●あ〜。

大塚 そういう作り方はするかな。

●全部が実体験ってわけではないんですね。

大橋 そういう、どこまで本当でどこから大塚さんが考えてやってるのかわかんない感じがまたなんかすごいなぁって。

大塚 「うつぎみDXOK」に関していうと、あの曲はスタジオで歌いながらその場で歌詞も作ったよ。即興的な感じで。だからあまり深くは考えてない。考えてないっていうか、その頃普段考えてたことを歌ってるよね。でも、かっこいい歌詞にしようとは思ってたと思うよ。ここはこう歌ったらおもしろいかな、と思ってる部分もあるけど。奇をてらって、っていうんじゃないよね。全力でかっこいい歌詞にしたいとは思ってたよ。

大橋 「夏休みは終わりだ」の市川由衣のくだりあるじゃないですか?あの曲の中にあの部分を入れてくるのはほんっとうに天才的だなと思いますね。

大塚 ふはは(照)

大橋 もう毎っ回聴くたびに思いますね。ああいうのは出来た時に「これはきた!!!」って思うんですか?

大塚 んー、まぁ、出来た時はいつも「いいな」って思うよ。


●おお〜。

大塚 市川由衣は、当時流行ってた妹系グラビアアイドルが何人かいて、その中でもやっぱり市川由衣だなって。歌えば会えると思って作ったわけではないよ。

大橋 ふふふふ(笑)。

大塚 人に言ってもらわないと自分の歌詞って全然分析出来ないから、こういう風に人の考えを聞くのって、すごくおもしろいんだよね。こないだ、漫画家の久保ミツロウさんがラジオでニーネの曲と大橋くんの漫画が「同じ世界観だ!」みたいに言ってくれてたでしょ?(2013/04/02放送ニッポン放送「久保ミツロウ・能町みね子のオールナイトニッポン」にて)「もう完全一致!!」って。大橋くんの漫画の世界観なら俺は読んで感じたりするけど、自分では自分がどういう世界観なのか、あんまりわからないんだよね。だけど、今、大橋くんにその部分の歌詞を取り上げて言ってもらって、「ああなるほどな」ってちょっと思ったのは、「夏休みは終わりだ!」とか、シリアスなことを歌ってる歌詞の間に、「市川由衣が…」って入ってくるっていうのは、ちょっと大橋くんの漫画にも通じるものが、多少なりともあるのかもしれないね(笑)。

大橋 ふふふ。

大塚 言われないとわかんないけど。


●大橋くんは「世界観が似てる」っていうことについてどう思いました?

大橋 世界観が似てるっていうのは自分でも…完全一致かはわからないですけど。

大塚 完全一致は言い過ぎだよね。

大橋 まぁそれは言い過ぎだとは思いますけど。でもあんまり俺の漫画が好きじゃない人にはよくないのかなとは思いますよね、「ニーネってそんなバンドなんだ」って思われちゃうのは。

大塚 はははは。そんなことはないよ。

大橋 でも、本当に大塚さんの書く曲は「悔しいな」って思うぐらいに好きなんで、やりたいことが漫画と音楽で違えど、「悔しい」って思うってことは、たぶん、自分でもやりたい世界なんだろうなって。そう考えると同じような世界観なのかなとは思います。





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